齋藤一個展-揺らぎ-に寄せて

齋藤一個展

 

 今展を開催するにあたりQuwanは齋藤さんに1つだけテーマをお伝えしました。それは、私達が齋藤さんの作る作品、制作スタイルから導き出した「揺らぎ」というワード。具体的な形や、色は指定せずにこの言葉だけを伝え今展を迎えた初日、齋藤さんから個展に向けてのテキストを頂きましたので、ここに掲載いたします。

 

-揺らぎ-に寄せて

「揺らぎ」というタイトルを頂いたとき、胸がすくような感覚がありました。制作者としての私の姿勢をそのまま表したような言葉であり、同時にこれまで私が意識していなかった方向へ視野を広げるような含みを持っていました。

「揺らぎ」とは、例えば点Aと点Bの間を、どちらの点にも帰着することなく、力の方向を変えながら動き続けることと言えると思います。あるいは点Aを基点に多方向へ、大小様々な力を持って位置を変え続けることと言えるかもしれません。

振り返れば私はそのAあるいはBに様々な言葉を当てはめることで、自らのスタンスを定めてきました。

初めは「オブジェ」や「食器」だったと思います。工芸的文脈の中で扱われる「オブジェ」に嫌悪感がありましたし、同時に純粋に道具として見なされる「食器」にも違和感がありました。それから先は、「陶芸的であること」「特定の用途を持つこと」「自然と人工」「作為と無作為」などと言葉を当てはめてきました。そしてその度に少しずつ自らの足場を狭めながら、制作者としての立脚点を探ってきました。

「揺らぎ」という言葉は、そんな私のあり方を俯瞰的に的確に捉えた言葉だと思います。一人称の視点では表れなかった観念であり、これまでの私のあり方を肯定的に捉えられるようなニュアンスを持っていました。

今展の出品作はほとんどがいわゆる「食器」ですが、どのように使っていただいても構わないと私は考えています。私が作る器も同じように「揺らぎ」の中にあります。見てくださる方が何か意味を見出せるものがあれば嬉しいです。

齋藤一

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